カラクリスタ

「輝かしい青春」なんて失かった人のブログ

インターネットを破壊しない限り書籍の海賊版へは対抗出来ない

ここ最近、

ネットの自由を破壊せずに 海賊版に太刀打ちできるビジネスモデルは存在可能か?

みたいなコトへぼんやりと思いを馳せていたのですが、色々と真面目に頭のなかでアイディアをコネコネした所、

あ、これ書籍に関してはムリゲーだわ

となったので、その辺りを忘れない様にメモって置きます。

デジタル化された作品はどうすれば海賊版を作られずに済むのか

まず、基本的にデジタル化された作品(書籍・音楽・映像問わず)は、デジタルデータであるが故に、 そのデータの取り回しが良ければ良いほど海賊版を作られ易い という構造が発生します。

そしてそれを防ぐために DRM などで暗号化し 作品を容易に複製できない様にする という手法が取られているのが一般的なんですが、 たとえ DRM を掛けたとしても 正規版の閲覧権利所有者には復号可能 という穴は(ビジネス上)防ぎ様が無い ため(誰も復号出来ないデータを買う人は居ない)、 DRM 自体は 海賊版を防ぐための嫌がらせ程度 か 、もしくは 海賊除けのお守り ぐらいの効力しか持ち得ません。

それでその前提に立った上で、 デジタル作品を海賊版として複製されるのを防ぐのはどうしたら良いか というと、 これはおおよそ次の通りになります:

  1. 正規版の閲覧権所有者にはデータを小出しにして、完全なデータそのものを提供しない
  2. 完全なデータを巨大化させて、インターネット上での海賊版流通のハードルを上げる
  3. 完全なデータを再生出来る機器を専用機のみにして、データを閲覧権所有者に触らせない

そしてこれらの手法は、技術的には(1)と(2)に DRM を組み合わせると DRM 付きストリーミング と言う手法になりますし、 (3)に関しては ゲーム専用機がそのハードウェアでしか動かせないゲームを提供する という事によって成立しています。

また先のリストの 3 つの海賊版対策は別に互いに排他な対策でもないので、これらをすべて掛け合わせて、

専用機でしか復号できない元データが巨大な作品をストリーミングで提供する

という手法を取れば 海賊版作成の難易度は上がります し、 その正規版を 海賊版を作るコストよりは廉価に提供する ことを行えば、 海賊版対策としては十全である と個人的には考えています。

では、なぜ『書籍』には上記対策が取れないのか

実は先の 3 つのリストに上げた海賊版対策は データとしては動的な記録物である 場合にのみ有効で、 それ以外の データとしては変化が無い静的な記録物である 場合、 それを ビジネス上の現実解として用いるのはあまり容易ではない と考えています。

と言うのも DRM 付きストリーミング音楽や映像作品の配信などで普通に使われている技術 であり 海賊版対策としても効力の高い手法 ですが、 技術的にそれが効力を発揮するのは データの中身が 現実の時系列に沿って変化する内容 である 場合に限られ、 書籍や漫画などはいかんせん テキストや画像などが 現実の時系列に関わらず一意に定まってしまう ため、 そもそも ストリーミング配信するといった方式が適さない という問題があります。

また、こと書籍(もしくは電子書籍)に関して言えば、仮に書籍のストリーミング配信が主流ととなったとしても、 紙の本を販売してそれをスキャンされてしまえば一発で海賊版を作成されてしまいます し、また、 それを短時間で手軽に可能にするドキュメントスキャナ等も手頃な値段で買えてしまいます

そしてなにより、書籍(特に漫画)などの表現形式は 実用可能なデータの容量が小さくて済む という現実が有る以上、 電子書籍のストリーミング配信という手法で海賊版に対抗する と言うのは 紙の本を全廃でもしない限り海賊版作成の心理的・現実的コストを上げる手法としては機能し得ません

よって、そうなってくると 人々を海賊版にアクセスさせない方法 としては、

  1. 海賊版を配信している Web サイトを摘発し閉鎖させる
  2. 海賊版を配信している Web サイトにアクセス出来なくする

の二択しか事実上選択することは出来ず、警察当局の摘発を逃れるために 防弾ホスティング経路秘匿化通信(Tor や i2p など) といった手法を用いられてしまうと、 最終的には(2)しか選択肢は無い事になり、 最終的には インターネットでの情報アクセスの自由に一定の制約を設けるしか無い というのが現実解になってしまうと考えています。

つまり ここまで考えた上で世論などの大多数の合意が取れている のであれば、

川上量生氏が強硬に主張したブロッキング海賊版対策としては(ある程度)正しかった

と言う事になります。

それでは何故、海賊版対策のためのブロッキングは空中分解したのか?

これ、本来の筋を通した上で行なう のであれば、

  1. まず憲法を改正し 通信の秘密 に制約を掛ける
  2. 次に電気通信事業者法を改正し ブロッキングを合法 にする
  3. 最後に実際にブロッキングを各 ISP に依頼し 海賊版 Web サイトのブロッキングを行う

と言う手順になると思います。

ところが、去年に ISP によるブロッキングの話が出た時には 海賊版への対策を急ぐあまり なのか、 憲法違反や現行法では犯罪行為となる(3)(1)と(2)をすっ飛ばして ISP に行わせようとし 、 かつ 国や政府の信頼や信用が様々な汚職疑惑でダダ下ってる中 反発を抑えようともせずに強硬に話を進めようとした、 というのがブロッキングの話が空中分解した原因だと私は考えています。 つまり 急いては事を仕損じる を地で行ってしまっていた、というのがああなった理由だろうと。

また、現在でも児童ポルノに限っては人道上の理由からブロッキングが例外的に認められている現実はありますが、 これは 児童ポルノの流通そのものが被害者児童への多大な人権侵害となり得るから例外的に認められている のであって、 本来であればこの手の規制は、著作権侵害というビジネス上の問題だけを理由に インターネット上での自由な情報アクセスに制約を掛けても良いのか という議論が先に成され、 その上でブロッキング相当の規制を設けるのが筋の通った手順だった様に感じます。 とは言え、これは 後から言っているだけの話 なので、あの当時、 ここまで冷静に道筋立てられる人が居たか と言うと 微妙だろう とも思いますけれども。

ちなみに、もし仮に(1)と(2)をすっ飛ばして ISP 側でのブロッキングを行わなずにブロッキング相当のことを強制するならば、

Web ブラウザなど海賊版 Web サイトへのアクセスを禁じる実装義務化 する

と言う手法が取れるかな、と自分は考えています。と言うのもこれなら 任意のフィルタリングソフトウェアを導入する と言うのと大差ないし、 ISP は検閲に相当する行為を行なわず、DNS over HTTPS なども無力化できると思うんで。

インターネットでの情報アクセスの自由はどこまで認めるべきなのか

正直な所、個人的には海賊版を理由にブロッキングなりフィルタリングを義務化するにしても、

インターネットでの情報アクセスの自由はどこまで認めるべきなのか

と言うのは問われるべき議題であると考えていて、この辺りの合意や同意をすっ飛ばしていきなり、

ハイこの Web サイトは海賊版だからこのブロッキングしてくださいね~

なんて言われても、誰も納得しないと思うんですよね。

またこの辺りの規制は本当に慎重に運用しないと、

いつの間にかインターネットの情報が どれもこれも規制されて見れない でござる……

という事にも繋がりかねないんで、そう言った意味でも筋道の立てられる様な議論や討論、 あるいは合意形成を行なわなければならない問題なのではないか、個人的には思います。はい。